トレーニングを始めた頃はやる気があったのに、気づけば自主トレの回数が減っている。
セッションの日は頑張れるのに、それ以外の日は「今日はいいか」と後回しにしてしまう。
そんな経験がある方は、少なくないと思います。
そして、運動が続かなくなったとき、多くの人がこう考えます。
「自分は意志が弱いから続かないんだ」
でも、これは本当に「意志の弱さ」が原因なのでしょうか?
運動が続く・続かないには、意志の強さだけでは説明できない要因があります。
その一つとして知っておきたいのが、心理学における「自己決定理論(Self-Determination Theory)」という考え方です。
この記事では、運動を無理なく続けていくために、自分の中にある「続けたくなる理由」をどのように見つけていけばよいのかを紹介します。
この記事で分かること
- 運動の継続を「意志力」だけで説明できない理由
- 自己決定理論という考え方の基本
- 自分に合った「続けれる理由」の見つけ方
- 今日から試せる、運動を続けるための小さな工夫
結論|運動を続けるには「やらなきゃ」より「やりたい」が大切
運動が続くかどうかは、「やらなきゃ」という義務感だけではなく、自分の中に「やりたい」と思える理由がどれだけあるかによっても変わります。
心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した「自己決定理論」では、人が自発的に行動を続けやすくなるためには、次の3つの心理的な欲求が満たされていることが重要だと考えられています。
- 自律性:自分で選んでいる感覚
- 有能感:できるようになっている実感
- 関係性:誰かとのつながりを感じられること
この3つを意識することで、「頑張って続ける運動」から、「自然と続けやすい運動」に近づけていくことができます。
なぜ「意志力」だけでは運動が続かないのか?
「やらされる」動機と「やりたい」動機は別物
運動を続ける理由には、さまざまなものがあります。
例えば、
- 「痩せなきゃいけないから」
- 「健康診断で言われたから」
- 「トレーナーに言われたから」
- 「夏までに体を変えたいから」
といった理由です。
これらは、運動を始めるきっかけとしては十分役立ちます。
一方で、
- 「体を動かすと気持ちいい」
- 「前より体が動かしやすくなった」
- 「できることが増えて嬉しい」
- 「トレーニングそのものが楽しい」
というように、自分自身が価値を感じている理由もあります。
このような違いを考えるうえで役立つのが、「外発的な動機」と「内発的な動機」という考え方です。
外発的な動機とは?
外発的な動機とは、簡単に言えば、自分の外側にある理由によって行動することです。
例えば、
「痩せなければいけない」
「トレーナーに言われたからやる」
「健康診断で注意されたから運動する」
といったものです。
こうした動機は、運動を始めるきっかけとして有効です。
しかし、外部からのプレッシャーだけに頼っていると、その理由がなくなったときに運動を続ける必要性も感じにくくなることがあります。
例えば「夏までに痩せる」という目標だけで運動をしていた場合、夏が終わった後に「何のために運動するのか」が分からなくなってしまうこともあります。
内発的な動機とは?
一方、内発的な動機とは、自分の内側から生まれる「やってみたい」「楽しい」「もっとできるようになりたい」といった気持ちです。
例えば、
「前より体が軽く感じる」
「フォームがきれいになってきた」
「以前できなかった種目ができるようになった」
「運動すると気分がスッキリする」
といった感覚です。
もちろん、すべての運動を「楽しい」と感じる必要はありません。
大切なのは、自分にとって運動する意味を感じられることです。
3つの心理的欲求が「続けたい」を育てる
では、どうすれば「続けたい」という気持ちは生まれやすくなるのでしょうか?
自己決定理論では、人が自発的に行動しやすくなるためには、次の3つの心理的欲求が重要だとされています。
① 自律性|「自分で選んでいる」という感覚
自律性とは、自分自身で選択して行動していると感じられることです。
同じトレーニングでも、
「トレーナーに言われたからやる」
のと、
「自分に必要だと分かったからやる」
のでは、感じ方が変わります。
例えば、トレーナーから「この種目をやってください」と言われたときに、その理由が分からないと「やらされている」と感じるかもしれません。
一方で、
「この動きを改善するために、この種目を行っています」
と目的が分かれば、
「なるほど。それならやってみよう」
と、自分の意思で取り組みやすくなります。
② 有能感|「できるようになった」という実感
有能感とは、自分が少しずつ成長し、できることが増えていると感じることです。
運動では、体重や見た目の変化だけが成果ではありません。
例えば、
- 前よりフォームが安定した
- 以前より重い重量を扱えるようになった
- 階段が楽になった
- 長く歩いても疲れにくくなった
- 体を動かしやすくなった
- 苦手だった動きができるようになった
こうした変化も、立派な「できるようになったこと」です。
目に見える数字だけではなく、自分自身の小さな成長に気づくことが、運動を続ける力につながります。
③ 関係性|「誰かとつながっている」という感覚
関係性とは、周囲の人とのつながりや、支えてもらっている感覚です。
運動は一人でもできます。
しかし、
「トレーナーが自分のことを見てくれている」
「一緒に頑張っている人がいる」
「運動について話せる人がいる」
という感覚があることで、続けやすくなる人もいます。
例えば、セッションのときに、
「前回教えてもらった運動を家でもやってみました」
とトレーナーに伝えるだけでも、自分の行動を振り返るきっかけになります。
ただし、ここでも大切なのは人によって合う方法が違うということです。
一人で黙々と取り組むほうが集中できる方もいれば、誰かと一緒に取り組むことで力を発揮できる方もいます。
「自分はどちらのタイプなのか」を知ることも、継続には大切です。
自己決定理論を運動習慣に取り入れる3つの方法
ここからは、自己決定理論の考え方を、実際の運動習慣にどう取り入れるかを見ていきましょう。
自律性を高める工夫
まずは、「自分で選んでいる」という感覚を増やしてみましょう。
具体的には
- トレーナーに「なぜこの種目をするのか?」と聞いてみる
- 自主トレの中で、取り組む種目や順番を一部自分で決める
- 「絶対にこれをやらなければ」ではなく、「今の自分に合っているのはどれか?」と考える
- 自分が無理なく続けられる運動の時間帯を選ぶ
- 「毎日やる」ではなく、自分に合った頻度を考える
特におすすめなのが、「なぜこの運動をするのか」を理解することです。
目的が分かれば、同じトレーニングでも「やらされているもの」から「自分のためにやっているもの」へと捉え方が変わりやすくなります。
有能感を高める工夫
次に、「自分は少しずつできるようになっている」という感覚を増やしていきます。
具体的には
- 体重の増減だけでなく、体の動きにも目を向ける
- フォームが安定したことを記録する
- 以前より重い重量を扱えたことを記録する
- 階段や日常動作が楽になったことを記録する
- できなかった種目ができるようになったことをメモする
- 難しすぎる目標ではなく、「今の自分より少し上」の目標を設定する
例えば、スマートフォンのメモに、
「今日はスクワットのフォームが前より安定した」
と一行だけ残しておくのでも構いません。
後から振り返ったときに、
「そういえば、最初はこれができなかったな」
と自分の変化に気づくことができます。
関係性を高める工夫
最後は、「誰かとのつながり」を運動習慣に取り入れてみましょう。
具体的には
- セッションで自主トレの結果や気づきをトレーナーに共有する
- 家族や友人に「今日は運動した」と一言伝える
- 一人で続けるのが難しい場合は、誰かと一緒に運動する
- SNSやアプリなどを利用して運動記録を残す
- トレーナーに定期的に運動の状況を確認してもらう
ここで大切なのは、「誰かに監視してもらう」ということではありません。
「自分の取り組みを見てくれる人がいる」という感覚を持つことです。
運動を続けるために、やってしまいがちな3つの間違い
① 「やる気」だけに頼ろうとする
「やる気が出たら運動しよう」と考えていると、運動する日が不安定になりやすくなります。
そもそも、やる気には波があります。
毎日高いモチベーションを維持する必要はありません。
むしろ、
「やる気がない日でもできる仕組み」
を作ることが大切です。
例えば、
- 10分だけ運動する
- 1種目だけやる
- ウォーキングだけにする
- トレーニングウェアに着替えるところまでやる
など、ハードルを下げる方法があります。
「今日は10分しかできなかった」と考えるのではなく、
「やる気がない日でも10分できた」
と捉えてみましょう。
② 成果を「体重・見た目」だけで判断する
運動を始めたからといって、体重や見た目がすぐに変化するとは限りません。
そのため、数字だけを成果の基準にしてしまうと、
「頑張っているのに変わらない」
という感覚につながることがあります。
運動の成果は、数字だけではありません。
例えば、
- 体が動かしやすくなった
- 疲れにくくなった
- 階段が楽になった
- 姿勢を意識しやすくなった
- トレーニングのフォームが安定した
- 以前より運動への抵抗感がなくなった
こうした変化にも目を向けてみましょう。
③ 他人と比べてしまう
SNSなどを見ていると、
「自分より重い重量を扱っている」
「自分より体が引き締まっている」
「毎日トレーニングしている」
という人が目に入ることがあります。
しかし、運動経験や生活環境、年齢、体力などは人それぞれです。
他人と比較するよりも、
「以前の自分と比べてどうか」
を見るほうが、自分自身の変化に気づきやすくなります。
昨日の自分より少し動けた。
先月よりフォームが安定した。
以前より運動が苦痛ではなくなった。
そんな小さな変化も、継続するうえでは大切な成果です。
今日からできる3つのこと
ここまで読んで、
「結局、何から始めればいいの?」
と思った方は、まず次の3つだけ試してみてください。
① 次のセッションで「なぜこの種目をするのか?」と聞いてみる
運動の目的が分かると、「やらされている感覚」が減り、自分のためのトレーニングとして捉えやすくなります。
② 今日の運動や体の変化を一行だけメモする
例えば、
「今日は前よりスクワットが楽だった」
「10分歩いても疲れにくかった」
この程度で十分です。
③ 誰か一人に「今日は運動した」と伝える
家族や友人、トレーナーなど、誰でも構いません。
運動したことを誰かと共有するだけでも、自分の行動を振り返るきっかけになります。
「続けられない自分」を責める前に、続けやすい環境を考えてみよう
運動が続かないと、
「自分は意志が弱い」
「もっと頑張らなければ」
と、自分自身を責めてしまうことがあります。
しかし、運動習慣を考えるときに大切なのは、意志力だけではありません。
「自分にとって、運動を続ける理由は何なのか?」
を考えることも大切です。
「自分で選んでいる」
「少しずつできることが増えている」
「誰かが見てくれている」
こうした感覚が、自分にとってどの程度大切なのかを一度考えてみてください。
そして、無理にすべてを満たそうとする必要はありません。
自分に合った方法を一つずつ見つけていけば大丈夫です。
まとめ|運動を続ける理由は「自分の中」に作っていける
運動が続かないのは、必ずしも意志が弱いからではありません。
運動を続けやすくするためには、「自分で選んでいる感覚」「できるようになっている実感」「誰かとのつながり」といった心理的な要素も関係しています。
自己決定理論で示されている3つの心理的欲求を整理すると、次のようになります。
- 自律性:自分で選んでいる
- 有能感:できることが増えている
- 関係性:誰かとつながっている
大切なのは、「もっと意志を強くしなければ」と考えることだけではありません。
「どうすれば、自分が自然と続けたくなる環境を作れるだろう?」
という視点を持つことです。
これを機に、
「なぜ自分は続けられなかったのか?」
ではなく、
「自分にとって、どんな状態なら運動を続けやすいのか?」
を一度考えてみてください。
運動習慣は、最初から完璧に作る必要はありません。
小さな「やってみよう」を積み重ねながら、自分に合った続け方を見つけていくことが、長く運動を続けるための一歩になります。
参考情報
- Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist.
- Teixeira, P. J., et al. (2012). Exercise, physical activity, and self-determination theory: A systematic review. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity.
- 鹿毛雅治 編. 『モティベーションをまなぶ12の理論―ゼロからわかる「やる気の心理学」入門!』. 金剛出版, 2012

